このお話はカマラブ初のミステリ仕立てになっています。そのコンセプトに沿ったサウンド演出をしていただけるとたいへん嬉しいです。(K)
NA(朝比奈響子)祖父からこの教習所の経営を引き継いでまもなく7ヶ月になろうとしている。
わたしが所長になるなどとは夢にも思って見なかったけれど、祖父がしばらく一人旅をしたいと言い出したために、止むを得ず引き受けることになったのだった。
長い間ずっと世話になっていた祖父に、自分の足腰が元気なうちにわがままを言わせてほしいなんて言われたら、誰だって断れやしないと思う。
まだまだ経験の浅いわたしに教習所の経営を引き継ぐ決心ができたのは、わたしにとって、大きなこころのささえがあったからだ。
(回想シーン)
由里「ね、響子、源じいの好きにさせてあげなよ!あたし、教習所のこと手伝ってあげるからさ!」
響子「本当に?」
由里「本当だよ!長いつきあいなんだからさ!あたしに遠慮しちゃダメだよ」
響子「ありがと、由里。じゃ約束してくれる?」
由里「いいよ。どんな約束?」
響子「(平然とまくしたてる)遅刻しない。道草しない。教習中に、買い物しない。買い食いしない。観光しない。行方不明にならない。教習生におごらせない。
ええとそれから、教習車は大切に乗る。ドリフトしない。無断で改造しない。
教習所をサーキットだと思わない。ハンドブレーキは停車と坂道発進のとき以外に使用しない。法定速度を守る。ええとそれから」
由里「ぐぐぐ。ね、まだあるのー、響子?」
響子「あと30コくらいだと思うけど」
由里「ごめん!覚えきれない!ってゆーか、あたしムリ!でもね、響子、ひとつだけ約束するからさ」
響子「どんな?」
由里「響子のことぜったい泣かさない。それだけは約束するよ」
NA(響子)そう言うと由里はにっこりと笑って、右手の小指をくいくいと動かした。
それはわたしたちだけに通じる合図だった。
(思い出す)ふふふ。そういえば由里ってあのころからずっと変わってないな。
小さかった頃、由里とわたしは毎日のように七里ヶ浜で遊んだものだった。
(SE)七里ヶ浜の波の音。カモメの声。時おり134号線を横切る車の音。
夕食の時間が近づくと、わたしには門限があったから帰らなければならなかった。
5歳の響子「ねえ由里ちゃん、明日も遊ぼうね」
5歳の由里「うん、遊ぼうね」
5歳の響子「じゃ、約束する?」
5歳の由里「うん、指きりだよ」
5歳の響子・由里「指きりげんまん嘘ついたらハリセンボンのーます!(FO)」
NA(響子)由里は、いつも『七里ヶ浜』の停留所のところまで送ってくれた。わたしが迎えにきた祖父といっしょにバスに乗ると、由里は必ずさっき指切りをした右手の小指を立て、高く差し上げて大きな声で叫んだ。
走り出すバスから由里の声は聞こえなかったけれど、口を大きく開けて「や・く・そ・く」と言うのが見えた。わたしも、右手の小指をたてて同じように口を動かした。
由里はひとりぼっちでさびしかったのだ。あのころのわたしは、『由里ちゃんパパもママもいなくてかわいそう』などと同情を寄せていたけれど、なんのことはない、今となってはわたし自身が、由里のいない教習所なんて想像もつかないのだから。
源太郎「響子、響子や」(SE)所長室にノック。源太郎が所長室に入ってくる音。
NA(響子)(気持ちがカラリと改まって現在)
祖父が旅に出ると、わたしはまもなく、正式に教習所の所長に就任した。
なにもかもがはじめての経験だった。わたしは自分の持てるすべてを教習所の経営に注いだ。ストレスで押しつぶされそうになった。
そして半年あまりが過ぎた。
ある日、ひょっこり帰ってきた祖父は、どこをどう旅してきたのかも言わぬまま、まるで何ごともなかったかのように、以前の生活にもどったのだった。
けれども祖父は、教習所のことは、もはやすっかりわたし任せで完全に隠居の身だ。
ならば老人は老人らしく、ご近所の老人会の活動にでも加わってくれれば安心なのだが、祖父はそんな普通の老人ではなかった。
源太郎「響子、おお、おるじゃないか、響子、こりゃ、聞こえんのか?」
NA(響子)祖父がいない間、どれほどわたしが心細かったか、どれだけ不安な日々を送っていたか。当人はまったく無頓着だけれど、あんな祖父でも、いてくれるだけでずいぶんと気持ちの支えになっているのだ。
源太郎「今、『あんな祖父』と言ったかの?」
NA(響子)(語りかけるように)おじいちゃん、帰ってきてくれて本当にありがとう。
源太郎「どういたしまして、でおじゃ」
響子「こちらこそ(一瞬の間)お、おじいちゃん!いたの?」
源太郎「さっきからずっとおるわい。響子、なにしとるんじゃ?」
響子「(恥ずかしそうに)あ、ダ、ダメよ!見ちゃ」
源太郎「(独白)声に出してしゃべっとったから、見なくても聞こえてたがの。
(響子に)なに書いとるんじゃ?」
響子「新しく『教官のつどい』っていうホームページを開設することになって、何か
思い出話でも寄稿して欲しいって由里に頼まれたから」
源太郎「ならば公開するんじゃろ?わしが見たってどうということはなかろうに」
響子「え?公開なんてしないわ!恥ずかしい!」
源太郎「ホームページに載せるんじゃろ?公開して後悔することになるじゃろが。のほ」
響子「え?そ、そういうことになるの?由里、そんなこと言ってなかったのに。
さては由里、わたしを騙したのねー」
源太郎「言うまでもないことじゃと思うがのー」
響子「(既に怒ってる)ゆーりー」
源太郎「響子はホームページというものに根本的な誤解があるようじゃの。
それより響子、わしをいつまでも頼っておったらいかんのじゃ。
『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』じゃ。お前はもっと友だちや仲間と信頼し合えるようにならねばの。それから早うボーイフレンドを見つけて恋をするのじゃ。恋はよいぞ。恋をすると、ひとは若々しう美しう変身できるのじゃ。の響子?」
響子「ね、おじいちゃん、何か用?」
源太郎「ありゃ、人の話聞いてなかったのね。用って、所長室に呼び出したのは
響子のほうじゃろが」
響子「あ、ああ、そ、そうね。ええと、おじいちゃんにアシカガユウコさんから電話があったの。なにか急いでたみたいだったけど」
源太郎「(慌てる)ユ、ユウコちゃんじゃと?それを早う言わんか!デナーのお誘いじゃったらどうするんじゃ!」
(SE)源太郎、さっそくアシカガユウコに電話をかける。ピッピッピ!トゥルルル!トゥルルル!ピッ!
アシカガユウコ「(電話の声)もしもし、アシカガユウコです」
源太郎「おおユウコちゃん、混浴ツアー以来じゃの、朝比奈源太郎じゃ。ユウコちゃんから電話をもらえるなんてほんに感激じゃよ!のーほっほっほ、でおじゃ」
ユウコ「(電話の声)オーナーね?そちらからお電話いただいて申し訳ありません」
源太郎「気にすることはないぞ。で、なんじゃ?デナーのお誘いかの?を?もしかしてわしのダジャレを聞きとうてたまらなくなったのかの?のほ?」
ユウコ「(電話の声)祖母が是非、オーナーと話がしたいというものですから」
源太郎「わしのダジャレを聞きたいのはダレジャ?なあんちての。のーっほっほっほー祖母じゃと?」
ユウコ「(電話の声)今、切らせていただこうかと思ったのですが。祖母が参りましたので代わります。少々お待ちくださいませ」
源太郎「ありゃ?ユウコちゃん?ほんに、せわしないのー。はて、ユウコちゃんの祖母?
誰じゃったかな」
アシカガのおばば「(電話の声)もしもし、源太郎かい?」
源太郎「どなたじゃ?でおじゃ?」
おばば「(電話の声)わしの声を忘れたのか?」
源太郎「ぎょ!アシカガのおばば?」
おばば「(電話の声)そうじゃ!昔は、しつこいくらい何度もナンパしたくせに、歳をとると声もわからなんだ!つれないものよ」
源太郎「おばば!わしも歳を取ったのじゃ。昔のことなどよう覚えておらんし、近頃はすっかり隠居の身じゃよ。よぼよぼ」
おばば「(電話の声)抜かせ。わしの孫たちと混浴ツアーに来ておったくせに」
源太郎「な、なんでおばばが知っておるんじゃ?」
おばば「(電話の声)知らいでか!アシカガ宗家の孫たちが、グループの二大幹部、細川、山名の両名を巻き込んで温泉旅行に出かけてしもうたのじゃ!本部では、危機管理問題で、上を下への大騒ぎだったのじゃ!それというのも諸悪の根源は、源太郎!おぬしにあるのじゃぞ!」
響子「(食って)はい、おじいちゃん、お茶が入ったわ」(SE)お茶碗を置く音。コト。
源太郎「おお響子!サンキューベリーマッチ一本火事の元!でおじゃ!(お茶をすする)
ずずー。で、おばば。何の用じゃ?」(主観スイッチ)
おばば「ありゃ、人の話、まったく聞いておらんし。ったく、怒る気も失せるわ!源太郎!名古屋が動き出したぞい!」
源太郎「(電話の声)名古屋?」
おばば「トクガワ自動車グループじゃ!あちこちに隠密を放っていると聞く。おぬしのところにもすでにスパイが潜入しているかもしれんぞい。聞くところによると、奴らは怪しげな術を使うという。なかでも『なりすましの術』という巧妙な変装術を使う隠密がおるらしい。知らないうちに教習所が乗っ取られてしまうかもしれん。剣呑剣呑じゃ」
源太郎「(電話の声)『なりすましの術』じゃと?」
おばば「そうじゃ!わしのところでも警戒をレベルスリーに強めておる。おぬしも気をつけるのじゃな」
源太郎「(電話の声)なぜわしに知らせる?(お茶をすする)ずずー。お茶がンまいの」
おばば「おぬしのところとは昔からライバル校じゃが、いつでも正々堂々と闘ってきた。
しかし、トクガワグループは別じゃ。奴らはシェオリーを無視しよる。相手を打ち負かすためには手段を選ばぬ。わしはそれが許せんのじゃ!じゃからして、おぬしのところとはしばらく休戦じゃ。『敵の敵は味方』というわけじゃ」(主観スイッチ)
源太郎「同盟を結ぶということかの?」
おばば「(電話の声)どうじゃ?」
源太郎「望むところじゃ!ユウコちゃんたちと、手を握るということじゃしの!ニギニギ!」
おばば「孫たちはおぬしのところを征服する野望に燃えておる。水を差すのはかわいそうじゃから、このことはわしとおぬしだけの秘密じゃぞ。よいな?」
源太郎「なんじゃつまらんのー。はーつまらん。どうせならユウコちゃんとわしだけの秘密がいいんじゃがの。のう、おばば。そっちに変更できんのかの?」
(SE)電話切れる。プチッ、ツーツーツー。
NA(響子)電話を終えると、祖父はお茶の残りをひと息に飲み干し、どういうわけか
「(モノマネで)今日は久しぶりに朝礼を行うーでおじゃ!」といって立ち上がった。教習所のみんなに何か重要なことを伝えたいと言い出したのだ。
(由里)あはははー。響子も真面目な顔してよくやるよねー。「(モノマネのモノマネで)今日は久しぶりに朝礼を行うーでおじゃ!」だって。あはは、おかしー。(響子)由里、あなたは、いつだって好き勝手やってるんだから、たまにはわたしが自由にやったっていいじゃない?(由里)別にいいけどさ。響子がモノマネするなんて、あんまり意外だったからつい。(響子)ほっといてよ!ここ、わたしの担当なんだから、つい入ってこないでよ!(源太郎食って)ふたりともまだまだじゃのー。「今日は久しぶりに朝礼を行うーでおじゃ!」が正しい言い方じゃよ。のほ。(響子)だから入ってくるなっつーのっ!
(由里、源太郎)こ、こわー。
(SE)街の雑踏の中、大祐の足音が教習所の中へ。教習所の自動ドアが開く音。
大祐「おはよーございまーす!」
由里「あ、来た来た!皆本くん、ね、今日はあたしが皆本くんの予約しておいたからね!」
理恵「えーっ?由里が予約したの?」
由里「そだよ。便利になったよねー、ケータイで予約できるんだもん」
理恵「そうじゃなくて由里、逆だよ。教官が教習生の予約をするんじゃなくて、教習生が教官の予約をするんだよ」
由里「いーじゃん、どっちだって、予約することに変わりはないんだからね!」
理恵「どうしてそーゆーことするかなーっ?」
由里「(ぶつぶつ)だってあたしって人気教官だから放っとくとすぐに予約入っちゃうし、だからって勝手にキャンセルすると響子がガミガミ怒るし。
皆本くんの教習しようと思ったら、教官が教習生を予約するっていうのが合法ギリギリの最終手段なんだもん、しょうがないじゃん」
理恵「なあにが合法ギリギリだか、皆本くんの教習しようと思わなきゃいいじゃん」
大祐「り、理恵ちゃん、な、なんてことを」
理恵「皆本くん、教官は由里だけじゃないんだよ」
由里「(理恵のセリフ食って)な、なに言い出すのよ!理恵!」
大祐「一理ある。てゆーかそれがフツーかも」
理恵「ね、あたし免許取ったら、次は教官になる勉強をするから、それまで待っててよ。あたしが教官になったら皆本くんのことマンツーマンできっちり指導してあげるからさ!」
由里「理恵、皆本くんいったいいつまで待てばいいのかしらねえ?」
理恵「えーと。教習指導員の資格は21歳で取得できるから、なんだあとたった3年じゃん。皆本くん、待っててくれるよね?」
大祐「ごめん理恵ちゃん、嬉しいんだけど、ぼくもう4年で就職活動してるよ。彼女を助手席に乗せてのんきにドライブしてる場合じゃないし」
由里「はい!消えたっと!」
理恵「ぶーっ。(慌てて)じゃさ、ね、ね、あたしもうすぐ免許取れるからさ、そしたら皆本くん助手席に乗せたげるよ。ね?ふたりでドライブしようよ!」
由里「理恵、皆本くんは彼女を助・手・席に乗せたいんだよ!そうだ!ふふ。いいこと考えちゃった!ね、あたしが助手席に乗って仮免運転中っていうプレートつければ、今日からだってドライブデートできるよ!ねーっねーっいい考えでしょ!」
理恵「えーっ、ずるいよー由里―っ!」
由里「へっへー悔しかったら早く教官になることだね」
(SE)響子の足音が近づいてくる。
響子「(全員に)みんな、揃ったかしら?今日は特別に朝礼を行います」
大祐「(FI)ねーふたりとも、それって根本的な解決になってませんよー」
理恵「由里、ずるいよーっ」
由里「へっへーだ!」
響子「そこっ!静かになさいっ!」
由里・理恵「(しぶしぶ)はあーい」
大祐「(ぼそっと)とほほ。ぼくまで叱られたじゃないですかー」
響子「それじゃはじめましょう。(せきばらい)今日は、おじいじゃなかった、前所長の朝比奈源太郎さんから教官のみなさんに大事なお知らせがあるそうです。はい、では源太郎さん、お願いします!」
(SE)源太郎が前に出る。ジャッジャッジャ。
源太郎「皆の衆!おっはよーっでおじゃ!」
全員「おはようございまーす!」
源太郎「うむ。けっこうけっこう。実はの、なにを隠そう?いやいや隠し事はいかんの。ほかでもない、といいつつ、ほかのことを話したりしての。のーほっほっほー」
響子「おじいちゃん!」
源太郎「わ、わかっとるわい。響子は相変わらず怖いのー。早う誰か嫁にもらってくれんかのー。まあ、前置きはこのくらいにして。(真面目に)
実はの、名古屋に本拠地を置く、かのトクガワ自動車グループが動き出したとの情報を入手したのじゃ。奴らはあちこちに隠密を放っているときく。
カマクラ自動車教習所にもすでにトクガワの隠密が潜入しとるかもしれんからして、警戒を強化せねばならん。みんな、いつものメンバーに少しでも不審な点があったら直ちに報告するのじゃぞ。なにしろ『なりすましの術』とかいう手の込んだ変装術を使うやつがおるらしいからの。
今日からは、『汝の隣人を疑え!』じゃ!隣の客はよく柿食う客じゃなかったシュパイだと思うのじゃ!よいな、皆の衆!以上じゃ!でおじゃ!」
響子「要するに源太郎さんは、この教習所にスパイが潜んでいるかもしれないって言っているの」
全員「スパイ?」
アオイ「(独白)な、なぜそのことを?朝比奈源太郎。ただのジジイではないな」
ハンゾウ「(エコー)アオイ、おぬしはそのまま怪しまれぬように行動するのだ。案ずる必要はない。俺も、すでに潜入している」
アオイ「(独白)は、ハンゾウ?どこにいる?」
ハンゾウ「(エコー)おぬしのすぐ近くにいるさ。また連絡する」
アオイ「(独白)『なりすましの術』かしかし誰だ?」
響子「まさかそんなことはないと思うのだけど、注意するに越したことはないわ。だから、みんな、もしなにか気がついたことがあったらすぐわたしに報告してね」
全員「はーい!」(SE)みんながおしゃべりしながら三々五々解散する。
理恵「もしかして、皆本くんがスパイだったりして」
大祐「ええ?理恵ちゃん、ぼくをうたぐってるんですか?」
理恵「なあんてね。でも、もし皆本くんだったらわたしスパイと逃避行しちゃおうかな」
大祐「いったい何が目的で、何からの逃避行なんですか!」
由里「意外と響子だったりするんじゃないの?」
響子「あのねえ由里、あなたとは4つの頃から幼なじみでしょう?」
由里「4つの頃から、ずうっとあたしを騙しつづけてたりして。由里ちゃん、あそぼーとか言って、あたしに近寄って、すうっかり安心させといて実はあたしのこと、密かに調査していたりして」
響子「(遮って)あんたのことは調査なんかしなくても全部知ってるわよ!」
由里「もしかして、アオイさんだったりしてー」
アオイ「(慌てる)い、いやですね由里さん、ぼくみたいな新米にはなにもできませんよ!」
響子「そういう由里はどうなの?最近の行動に、怪しいところがあったりするんじゃないのかしらねえ?」
理恵「それは、皆本くんが一番よく知ってるよ?だって由里といっつもいっしょにいるんだもん。ね、皆本くん?」
大祐「うえ?ぼくですか?別に由里さんに怪しいところなんかないと思いますけど」
響子「怪しいところがなくても、やましいところはたくさんあるわよねえ」
由里「言ったなー、響子!」
理恵「あ、はじまるよ!皆本くん、ゴングゴング!」
大祐「まあまあおふたりとも朝っぱらからやめてくださいよ。理恵ちゃんもあおってどうするんですか」
理恵「なあんだつまんないの。あ!ねえ、意外と木下さんが怪しかったりしてね?」
木下「あはは。理恵ちゃん、ぼくをうたぐってるのかい?」
由里「そういえば、最近だれかとよく電話してるし、ときどき夜出かけるし、まるで恋人ができたみたいな行動だよね。アヤシーよね」
理恵「ああ、そっちの『怪しい』かー!」
木下「もしかしたらぼくかもしれないぞ!由里ちゃんも理恵ちゃんも、気をつけたほう
がいいぞー。ほらー、おそっちゃうぞー」(SE)木下が二人を追いまわす。バタバタ。
由里・理恵「(由里)きゃー木下さん、怖いー。(理恵)きゃー助けてー。(ふたり)あははははー」
大祐「あの、みなさん、おばけじゃないんですから」
源太郎「だれもわしのことは疑ってくれんしー。はー、ほんにつまらんのー」
NA(響子)こうして、祖父が突然言い出したことから始まった教習所のスパイ騒動は、その後しばらくの間みんなが疑心暗鬼になり、教習所の雰囲気が重く沈んでしまうという不幸な事態をもたらしたのだった。(大祐)あの、沈んでるように見えないのぼくだけでしょうか。緊張感ぜんぜんないし。
アオイ「(独白)さすがハンゾウ『なりすましの術』。すでにハンゾウが潜んでいるというのに誰も気づいていない。まったくいつもの朝の自然な会話だ。
いや、会話自体は不自然だが。
しかし、このオレもすっかり騙された。奴の『なりすましの術』は、まさに完璧だ」
(第15話おわり)
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