(SE)波の音。ザザー。ザザー。以後、オープニングまで薄く続く。
OP前セリフ
皆本大祐「ぼくは、夏になるたびカマクラを想いだす……」
タイトルNA(朝比奈響子)インタラクティブドラマ
第4話 サンダーボルテージ作戦
オープニングBGM
NA(皆本大祐)
その日、ぼくは教習室で学科教習の準備をしているところだった。
(SE)教習室に、人が集まってくる気配。ざわめき。
梶原理恵「(元気に)皆本くん、こんちは!」
皆本大祐「こ、こんにちは。(独白)梶原さんだ……。かわいー……」
理恵「となり……座っていい?」
大祐「あ、はい。どうぞ」
(SE)イスを引く音。理恵、大祐のとなりに座る。
理恵「ね、皆本くん?」
大祐「ん?」
理恵「……皆本くんは、どうしてここを選んだの?」
大祐「(ちょっと考える)えーと。あ、そうだここのチラシを見たんだよね。ポストに投函されてたから……。
ここを選んだのは、やっぱ学費だね。ほかより10万円以上安いからね……
そういえばあのチラシのイラストって……」
理恵「……あ、あれあたしが書いたんだよ!可愛いでしょ?」
大祐「へ?あ、そ、そうだねえ。(独白)うわー下手くそだって言っちゃうとこだった……あぶねー」
理恵「あたし、絵を描くの大好きだったりするんだー……だから、いつもスケッチブック持ち歩いてるよ」
大祐「ふーん。(独白)でも、梶原さんって意外と少女趣味だな」
理恵「あ、そういえば皆本くん。由里の技能教習ってどう?」
大祐「(乾いた笑い)はははは。なんていったらいいんだろ。梶原さんのほうが詳しいんじゃない?」
理恵「……理恵でいいよ。年下なんだし……」
大祐「え?とゆーことは……」
理恵「うん、まだ女子高生だよーん」
大祐「じゃ理恵ちゃん、バイトなんだ」
理恵「そゆこと」
大祐「ふーん」
(SE)教習室の自動ドア開く。フイーン。ヒールの音が入室し、自動ドア閉まる。
ヒールの足音、正面の壇上に上がる。
朝比奈響子「(きびきびと)みなさん、おはようございます!」
教習生「(20人くらい)おはようございまーす!」
響子「この時間の学科の教習を担当します朝比奈響子といいます。
よろしくお願いします。
さ、それではさっそく教本の90ページを開いてください。今日は、第1段階パート14『標識・標示に従った走行』です。
このパートでは、みなさんが車を運転するときに非常に重要な標識や標示について学習します。しっかりと覚えてください。
正しい知識がないと、事故のもとですからね……(話続きますが、FO)」
大祐「(前のセリフ食ってください)……理恵ちゃん、受付にもどらなくていいの?」
理恵「今日は、あたしの担当じゃないもん」
大祐「じゃ、ぼくになにか?」
理恵「なにかって?」
大祐「用があるんじゃないの?」
理恵「別に。どうして?」
大祐「じゃ、ここでなにしてるの?」
理恵「学科教習受けてるの」
大祐「へ?」
理恵「あたし、ここの教習生だよ」
大祐「へー?そうだったんだ」
理恵「18になったら即行で免許取ろうと思ってたからさ!」
大祐「由里さんとは教官と教習生の関係だったんだ」
理恵「そういうときもあるね」
大祐「……そうじゃないときがあるの?」
理恵「少なくとも、そうじゃないときのほうが普通だよ」
大祐「……どういう意味?」
理恵「あ、知らないんだ。じゃ知らない方がいいかも……」
大祐「そこまでいったら気になるなー。教えてよ」
理恵「うーん。由里に聞いてよ!あたしからはちょっと……」
響子「理恵!私語はつつしみなさい!今、重要なポイントを説明してるんだから……」
理恵「(素直。舌を出す感じ)あ、ご、ごめんなさーい」
響子「じゃ、余裕があるみたいだから、梶原理恵さんに問題。みなさんもいっしょに考えてみてくださいね。
いい?理恵。(SE)テキストをかかげて指をさす。ページのめくれるような音。
この標識は何を表してる?」
理恵「……駐車禁止!」
響子「違反した場合の罰則は?」
理恵「えーと。10万円以下の罰金。行政処分の基礎点数は1点」
響子「じゃ、そもそも『駐車』ってどういう状態を指すの?」
理恵「道路交通法2条1項18号の定義によれば。駐車には二通りあって、
まず第一は、車両等が客待ちや故障その他の理由で継続的に5分間以上の時間、停止すること。
そして第二に、車両等が停止して、その運転者がその車両等を離れてただちに運転することができない状態にあることをいう」
大祐「(独白。驚嘆)すっげー!」
響子「……理恵、できるわね。その調子なら学科の心配はなさそうね……」
NA(皆本大祐)
教習時間中、そんな質疑が3回ほどあった。
ふたりのやり取りを聞いていたぼくは、だんだん不安になってきた。こんな難しい問題が本当にでるのだろうか?
(SE)教習時間が終わり、教習生が退出するガヤ。
理恵「皆本くん、響子さんの質問聞いてびびってるでしょ?」
大祐「う、うん。かなり……」
理恵「だいじょうぶ。あんなの絶対に出題されないから……」
大祐「じゃ、どうして理恵ちゃんそんなに勉強してるの?」
理恵「あたしもね。響子さんや由里みたいに教官になりたいって思ってるんだ……。
そしたら、響子さんにね、強制的に教え込まれちゃった」
大祐「ふーん。理恵ちゃんも教官になりたいんだ」
理恵「うん。あ、それより。ね、お昼いっしょに食べない?」
大祐「え?」
理恵「カマクラ山にさ、おいしいステーキハウスがあるんだ。行こうよ?」
大祐「(独白)り、理恵ちゃんにランチ誘われるなんて……。な、なんてラッキーなんだ。
うるうる。この教習所にして本当によかったー。(独白ここまで)
う、うん。いいね」
理恵「ちょっと歩くけど、いいよね」
大祐「(独白)いっぱい歩いてもいい」
理恵「ん?なんか言った?」
大祐「いや。なにも」
NA(皆本大祐)
そして、ぼくたちは教習所のことや由里さん、響子さんのことを話題にしながら、ちょっとだけ贅沢なランチを楽しんだ。
もしかしたら、生まれて1番素敵な昼食だったかもしれない。
けど、そのときはカマクラ山に嵐が近づいてることなんか想像もしてなかった。
とんでもない嵐が……。
大祐「なんか雲行きが怪しくなってきたからそろそろ戻ろうか」
理恵「うん」
(SE)遠くで雷の音。ゴロゴロゴロゴロ……。ふたりの足音。
大祐「急ごう!」
理恵「うん。(少し間)……ねえ、皆本くん?」
大祐「なに?」
理恵「……皆本くんって、由里のこと、どう思ってるの」
大祐「え?」
理恵「……由里ってさ、ちょっと過激だけど、可愛いところもあるから、ファンの教習生、多いんだよね。
皆本くんはどうかなって思って……」
大祐「きれいだし、すっごくスタイルいいよね」
理恵「(少し残念そう)……やっぱ、皆本くんも由里のことタイプなんだ……」
大祐「……タイプって……そこまで具体的に考えたことないけど……」
理恵「じゃ、なんとも思ってない?」
大祐「(言いよどむ)え?ま、まあね。でも、どうしてそんなこと聞くの?」
理恵「え?(ごまかす)どうしてって、それは、その、あのー、なんてゆーかさー。
つまりそのー。あ!空飛ぶ円盤!」
大祐「どうして話そらすかなー?」
理恵「本当だよー。こーんなのが飛んでた!」
NA(皆本大祐)
理恵ちゃんは、唐突にスケッチブックを取り出して、手際よく、『空飛ぶ円盤』の絵を描いた。
うーん。言われてみれば、円盤に見えないこともないかなって思うんだけど……。
でも、その周りにふわふわしてる花とハートはなに?どうして円盤に目があってまつげが生えてるのかなー?
理解に苦しむ……。
大祐「あのねー。……なんか理恵ちゃんへんだよ……」
理恵「別にー、普通だよ。あ、降ってきた!」
大祐「本降りにならないうちに、帰ろう!」
(SE)ふたりの足音。駆け足に。遠くで雷鳴。ゴロゴロゴロゴロ……。
(SE)フランス国歌「ラマルセーユズ」の着メロ。
理恵「あ、ごめ。電話だ。(SE)ピッ。……もしもし?」
北条由里「(電話の声)理恵?あのさ、皆本くんどこにいるか知らない?」
理恵「えーと。知らない」
(SE)遠くで雷鳴。ゴロゴロゴロゴロ……。
由里「(電話の声)……おかしいわねー。理恵といっしょに出かけたって、響子、言ってたのに……」
理恵「ふーん。でもあたし今、ニューヨークだもん。ハローハロー?」
由里「(電話の声)あのねー。雷の音、思いっきりステレオで聞こえてるんだけど……。
悪いけどあんたの遊びにつきあってるひまないんだ!本当に知らない?」
理恵「知らないよ。皆本くんのケータイにかけてみたら?」
由里「(電話の声)かけたわ。でも電源が切れてるの」
理恵「由里、今どこ?」
由里「(電話の声)134号。材木座から由比ガ浜に向かうとこ」
理恵「教習中じゃないの?」
由里「(電話の声)昼休みだよ……。午後の教習で皆本くんの予約入れようと思ったのになー」
理恵「どうして?」
由里「どうしてって、……あんたに関係ないじゃん!それより本当に知らない?」
理恵「知らないよー!あたし、今北京だもん!ニーハオ!」
(SE)プチッ。
理恵「(独白)あはは。切れちゃった。(大祐に向かって)由里が皆本くんのケータイ、電源切れてるって……」
大祐「あ、そーか。学科教習から電源を切ったままだった。(SE)電源入れる音。ピッ。
由里さん、なんか言ってた?」
理恵「別になにも……」
(SE)RRRRRR。大祐の携帯鳴る。
大祐「あ、今度はぼくだ。(SE)ピッ。もしもし?」
由里「(電話の声)あーやっとつながった。……もしもし?わたし」
大祐「……由里さん?」
由里「(電話の声)ねえ、午後の教習、7号車予約できるよ……」
大祐「今日の予約は、朝比奈教官の3号車なんだ……」
由里「(電話の声)なーんだ。せっかくカマクラデートの打ち合わせしようと思ったのに」
大祐「デ、デート?(独白)あの電話は夢じゃなかったんだ……」
理恵「え?皆本くん、由里とデート?」
由里「(電話の声)あれ?今の理恵じゃない?」
大祐「……理恵ちゃんならここにいるけど……」
理恵「あちゃー!ばれちった」
由里「(電話の声)あー。嘘ついた!」
大祐「嘘?」
由里「(電話の声)皆本くんじゃないよ。理恵だよ」
大祐「へ?」
由里「(電話の声)理恵に、そこ動くなって言っといて!あ、皆本くんもね!」
大祐「な、なに?」
(SE)プチッ。
大祐「り、理恵ちゃん、なんか由里さん怒ってたみたいだけど……」
理恵「(天気予報のように)相模湾上空に突如発達した台風7号は、激しい気性をともない、
勢力を増しながらただいま由比ガ浜に上陸した模様です!あははは。」
大祐「あのー。笑ってる場合かな……そこ動くな!とか言ってたけど」
理恵「だいじょうぶ。ぜーんぜん平気……」
大祐「どうして?」
理恵「由里、動くなって言ったんでしょ?」
大祐「うん」
理恵「(かなりの早口)あたしたちの居場所を由里がわかるのはケータイに着信したときの基地局の電波から計算した位置を
カーナビの画面にプロットできるからなんだ。だから、この場所を移動しちゃえば、もう追ってこれないよ」
大祐「え?ケータイの基地局の電波のカーナビのプロット?」
理恵「うーん……。だいたいそんな感じ……だから、早く逃げよー!」
大祐「逃げる?」
理恵「そ!由里のドライブテクは、国際A級だからあっという間に追いつかれるよ!」
大祐「……追いつかれるとどーなるの?」
理恵「(おどろおどろしく)サイアク、命がないかも……」
大祐「うえー?」
理恵「なーんてね!でも安心して、だいじょうぶだよ」
大祐「(少し安心)だいじょうぶ?」
理恵「(明るく)だって、皆本くんがついてるもん!」
大祐「(急に不安)そ、そう?」
(SE)雷の音。ゴロゴロゴロゴロ。雨本降りになる。ッザーーーーーーー。
大祐「うわ、土砂降りだー」
理恵「ね、皆本くん!傘、持ってない?」
大祐「すぐ帰るつもりだったから……」
理恵「じゃ、この坂降りれば深沢にボウリング場があるから、そこで雨宿りしよ!」
(SE)二人の坂を駆け下りる足音。タッタッタッタッタッタ!(アスファルトです)
雨の音。ザーーーーーーー。雷の音。ゴロゴロゴロゴロ。
大祐の携帯鳴る。RRRRRR。RRRRRR。
理恵「あ!電源切って!」
(SE)大祐ケータイに出る音。ピッ。理恵のセリフとほぼ同時。
大祐「え?」
理恵「遅かったかー」
大祐「あ……。基地局のケータイの電波の……カーナビ?」
理恵「そ!由里に見つかったってこと!」
大祐「(おそるおそる)もしもし?」
由里「(電話の声)ダメぢゃん!動いたらー!」
(SE)エンジンの音。急激にFI。ブウゥワオオオオオオ―ン!
背後の坂道の向こうから007号車現る!
大祐「わーっ!、う、後ろ!ゼ、007号車だ!」
(SE)雨の音。ザーーーーーーー。雷の音。ゴロゴロゴロゴロ。
007号車が坂を降りてくる音。ブブゥゥゥゥゥン!
理恵「早く!皆本くん!」
大祐「う、うん……」
(SE)二人の走る足音。7号車の追いかける音。タッタッタッタッタ……。
ブワオーー―ン!キュキュキュキュキュ。ブゥゥゥゥウーーー!
理恵「キャーッ」
大祐「うわーっ」
(SE)キーーーーーッツ!ズジャジャーッツ!二人の前で007号車、急転回して停止する。
大祐「(独白)ああ、万事休す……」
(SE)ドアの開く音。ガチャ!
(SE)雨の音。ザーーーーーーーー。(以後も薄く)由里、007号車からゆっくり降りる。
ザザッ。ドア後ろ手で閉める。バム!
由里「(責めるように)逃げたってことはなにかやましいことしてたってことだよね?」
理恵「……雨宿りしようと思っただけだよ!」
由里「どこで?」
理恵「ボウリング場……」
由里「あーっ!二人だけで遊ぼうとしてたなーっ!」
理恵「いけない?」
由里「ダメ!ぜーったいにダメ!」
理恵「なーにムキになってんだか……」
由里「わかったわ、理恵!勝負する?」
理恵「由里、もういい大人なんだからさ……」
由里「うるさーい!勝負ったら勝負よ!」
理恵「そんなに言うなら受けたげるけど……。由里、勝負ってなに賭けるの?」
由里「え?」
理恵「勝負なんでしょ?あんたが勝ったらなにを望むの?」
由里「……そ、そんなことあんたに関係ないじゃん!」
理恵「なにいってんの?勝者が敗者になにを要求するのか、事前に決めるもんでしょー?」
大祐「(おそるおそる)ねえ、二人とも風邪引くよ……」
二人「(すかさず)あんたは黙ってて!」
大祐「こ、怖わー」
由里「じゃ、理恵が勝ったらなにを要求するわけ?」
理恵「(少しひるむ)あ、あたしが先に聞いたんだから、由里から答えなよ!」
由里「恥ずかしいからやだ。理恵から答えなよ!」
理恵「なんで恥ずかしいの?」
由里「あ……」(やりとりFOしつつ、次の大祐のセリフかぶる)
大祐「……車の中に傘がある!由里さんのだな……」
(SE)車のドアの開く音。閉まる音。ガチャ!バム!
(SE)傘を開く音。バササッツ!
大祐「しょうがないなー二人とも。濡れるよ……」(と、二人にさしかける)
二人「(動揺)え?……あ、ありがと……」
NA(皆本大祐)
その直後だった。ぼくに最高の幸せが訪れた瞬間は……。
(SE)かなり近くに雷の落ちる音。ガラガラガラピッシャーーーン!
二人「(可愛い悲鳴)キャーーーーッツ!皆本くーん」
大祐「え?えへへへ?」
(エンディングBGM)
(SE)大祐のケータイ鳴る。RRRRR。RRRRR。ピッ。
朝比奈響子「(落ち着いてる)もしもし?朝比奈です。皆本くん?すぐに戻りなさい。午後の教習始めるわよ。
……それからそこにいる、『できそこない』と『見習い』をすぐに連れて帰ってきてくれない?
まったく困った人たちなんだから……」
(第4話終わり)
【カマクラカルトクイズ4】
梶原理恵「それじゃ、みんな準備はいい?せーのっ!」
理恵のみ「カマクラカルトクイズー!ドンドンパフパフー!(途中でテンション落ちる)
って、みんなもいっしょにやってよー」
北条由里「今回は、ちょっとテンション続かないから一回やすみにしようよ!」
梶原理恵「もう!つきあい悪いんだからー。じゃ、なにするの?」
北条由里「うんとねー。カマクラでおいしいものの紹介! あたし、手打ちそば!段葛のこすず!」
梶原理恵「じゃ、あたしは、カマクラ山納豆!」
朝比奈響子「やっぱり鳩サブレは外せないわね。 みなさんはカマクラで何をおみやげに買って帰るのかしら」
皆本大祐「あのー。ただ自分が食べたいもの言ってるだけじゃないんですか……」
音声ドラマとシナリオは演出の都合上、一部変更されている場合があります。
(C)2000-2001 (K)
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