(SE)波の音。ザザー。ザザー。以後、オープニングまで薄く続く。
OP前セリフ
皆本大祐「ぼくは、夏になるたびカマクラを想いだす……」
タイトルNA(朝比奈響子)インタラクティブドラマ
第3話 ドライバーノオ!
オープニングBGM
(SE)……RRR。RRRRR。RRRRR。携帯電話のコール音FI、さきほどから
ずっと鳴り続けている。ピッ。大祐出る。
皆本大祐「(めちゃめちゃ眠い)ふ、ふゎーい。もひもひ?」
北条由里「(電話の声)わたし、由里だよ」
大祐「(口がまわってない)……え?ゆ、由里ひゃん?ど、どうひたんれふか?」
由里「(電話の声)今日はさ、わたし10時から予約めいっぱいだから、皆本くん、早朝教習の申込みしたほうがいいよ」
大祐「へ?きょうひゅう?い、今、何時でふかー?……ゲ、5時。(SE)ベッドに倒れこむ。バフッ。おやふみなふぁーい」
由里「(電話の声)起きなさいってばー。早朝教習は7時から……」
(SE)電話切れる。 少し間ピッ。
(SE)……RRR。RRRRR。RRRRR。ピッ。大祐出る。ピッ。
大祐「もしもし?」
由里「(電話の声)……皆本くん、切らなくたっていーじゃない!」
大祐「今何時だと思ってるんですかー?」
由里「(電話の声)5時1分54秒。あ、55秒になった。
(時報みたいなとぎれとぎれの声で)まもなく5時2分をお知らせします!
(SE)ピ、ピ、ピ、ピー!。……5時2分」
大祐「あのー、ぼくになにか恨みでも?」
由里「(電話の声)早朝運転してスキッとしようよ。気持ちいーよ!」
大祐「気持ち悪くてもいいから、今のぼくは睡眠が欲しいんです」
由里「(電話の声)眠くなったら運転代わってあげるからさー」
大祐「は?」
由里「(電話の声)ね!」
(NA)皆本大祐
そして、ぼくは、由里さんのなんだかよくわからない説得力に負けて、カマクラ教習所の早朝教習を受けることになった。
といっても、その日、早朝教習を行っているのはぼくたちだけだったのだが。
由里「じゃ、いつものコースで駅前を通り過ぎて、八幡宮を左折したらカマクラ街道を北上するでしょ、
で、大船の手前から湘南モノレールの高架下を走ってここまで戻る!今日はタイムトライアルでね!」
大祐「は?」
由里「ただ走るだけじゃつまんないから、30分以内にここに戻ること!」
大祐「そんなー、無理ですよー」
由里「ルールその2!やってみないうちから、無理だって言わない!それじゃ、しゅぱーつ!」
大祐「(力ない笑い)あはははー」
(SE)アクセルを踏んで車がスタートする。ブゥゥゥゥゥゥゥ。
(NA)皆本大祐
そして、由比ガ浜大通りをしばらく走ったころだった。
(SE)携帯着メロ。唱歌カマクラ(♪七里ガ浜の磯伝い)由里、電話に出る。ピッ。
由里「もしもし?」
梶原理恵「(電話の声)あ、あたし、理恵だよ!」
由里「どしたのこんな時間に?」
理恵「(電話の声)それはあたしのセリフだよ。なんでこんな早くっから教習してんの?」
由里「(あわてる)な、なんで知ってんの?」
理恵「(電話の声)だって、今あたしの目の前、007号車、走っていったもん」
由里「皆本くん!」
大祐「はい、なんですか?」
由里「ちょっと止めて!」
大祐「え?」
(SE)派手なブレーキの音。キッキーーーーーー。車止まる。ガックン!
大祐「いきなりブレーキ踏むから、まーたエンストしたじゃないですかー」
由里「ちょっと待ってて!」
(SE)由里。道路に出る。ガチャ、バム!道路に仁王立ち。
理恵走ってくる。足音。タッタッタッタ。由里たちのところに追いつく。
理恵「(声遠い)はあ、はあ。おっはよー、由里!」
大祐「あ、梶原さんだ!かわいー」
理恵「(声遠い)あ、皆本くん!おっはよー!」
大祐「おはよう!」
由里「(電話の声)で、理恵、どうしてここにいるの?」
理恵「(電話の声)……どうしてって、いちゃ悪いの?」
由里「(電話の声)悪いよ。今教習中なんだから、邪魔しないでよー」
理恵「(電話の声)あたし、邪魔した?」
由里「(電話の声)電話かけてきたりして……」
理恵「(電話の声)電話っ……て、あ、なんで電話で話してんだろ?あははは」
由里「(電話の声)あ、切らな……」
(SE)理恵、電話切る。ピッ。
理恵「(声遠い)ねー?皆本くん、あたし邪魔しちゃった?」
大祐「え?邪魔?なんで?」
理恵「だって由里が……」
由里「(とってつけたよう)な、なに言ってるのかしら?理恵?たまたま歩いてただけよねえ?
今日は、お天気もいいし……どちらにお出かけかしら?」
理恵「名古屋でいとこの結婚式があってさ……あ、いけない!あたし遅れそうで走ってたんだ!」
由里「……じゃ、急いだほうがいいわね」
理恵「(泣き声)7時37分の上りだもん。もう間に合わないよー」
由里「……じゃ、あきらめたほうがいいかもね」
理恵「あ!」
由里「なに?」
理恵「車なら……」
由里「なによー?」
理恵「ね!由里、お願い!乗せて!」
由里「ダメ!教習中だよ」
理恵「そこをなんとか!新幹線に遅れちゃう!」
由里「どうしようかなー」
理恵「一生のお願い!」
由里「……いいよ。乗って」
理恵「助かったー。ありがと!」
(SE)由里、乗る。ガチャ!バム!理恵、乗る。後部座席に回る足音。ガチャ!バム!
由里「……ただし。理恵!この貸しは『紫いもソフト』だよ!」
理恵「うーん。……わかったよ。でも、恩に着る!ありがと!皆本くんよろしくね♪」
由里「じゃ、皆本くん、出して!」
(SE)車のエンジンの音。ブゥゥーーーーー。
大祐「(独白)……いつのまにかタクシーになってるし……」
(NA)皆本大祐
ぼくたち3人は、由比ガ浜大通りをカマクラ駅目指して急いだ……って、これ本当に教習になっているのだろうか?
(由里の声)なんか言った?
(理恵の声)皆本くんていいひとだよね。ありがと!
うーん。由里さんはきれいだし、梶原さんはかわいいし……ま、いっか。
(SE)車のエンジンの音。ブゥゥーーーーー。
由里「あまり時間ないわね。西口に行こ!」
大祐「え?」
由里「ほら、目の前の信号、六地蔵の交差点で左折して!」
大祐「左折ですか?」
由里「そう。ウインカー出して、左によせて!」
大祐「はい」
(SE)ウインカー出る。カチカチカチカチ。
大祐「わ?」
由里「なに?」
大祐「ダメです!進入禁止の標識……」
由里「補助標識ついてるでしょ!よく見る!」
大祐「あ、ほんとだ。えーと、日曜休日を除く7:30から8:30」
由里「理恵!今、何時?」
理恵「7時29分だよ」
由里「あと1分あるね。急いで!」
大祐「え?」
由里「7時30分からは一方通行逆走になるからね!」
大祐「ひえー」
(SE)エンジンの音。ブゥゥゥゥゥゥゥ。
由里「4速にして、法定速度ぎりぎりで走って!」
大祐「(怖い)は、はいーー」
由里「ギア、滑らかにつなぐの!スピード、ロスしてるぞ!」
大祐「わ、わかりましたー」
(SE)エンジンの音。ブゥゥゥゥゥゥゥ。
由里「もっとスピードあげて!」
大祐「は、はい」
由里「もっと!」
大祐「あ、信号黄色……」
由里「アクセル踏み込む!」
大祐「はい!」
(SE)エンジンうなる。ブォォオオオオン!
由里「対向車、きてるよ!」
大祐「はい!」
(SE)クラクションの音パアーッ!対向車とすれ違うブワッ、
由里「理恵!カウントダウンお願い!」
理恵「うん。……あと30秒」
大祐「わ、だんだんあせってきた……」
理恵「……皆本くん、運転うまいじゃん!」
由里「教官をほめてよー」
理恵「(からかうように)買い物の足代わりに使ってるだけじゃないのー?」
大祐「(独白)するどい……」
由里「なに言ってるの!わたしみたいにドライビングテクニックまで懇切丁寧に指導する教官なんかいないよ!」
理恵「(からかうように)道交法かいくぐるテクニックじゃないの?」
由里「理恵、どうしても降りたいみたいだね」
理恵「あ、由里さま、嘘です。由里さまこそ教官の中の教官!」
由里「そー。それでいいのよ」
大祐「(会話に割って入る)あのー。静かにしてくれません?集中できないんですけど」
ふたり「(素直)あ。ごめんなさーい!」
由里「それはそうと時間は?」
理恵「……あと15秒」
大祐「ま、間に合わない……」
由里「市役所前で右折よ!見たところ、信号は黄色に変わる微妙なタイミングだけど、止まってたら間に合わないね」
理恵「あと10秒、9……(カウントダウン続ける)」
由里「皆本くん、アクセル踏み込んで!」
理恵「8、7……」
大祐「でも右折するのにシフトダウンして減速しないと……」
理恵「6、5……」
由里「スピード落とさずに曲がるの!」
理恵「4、3……」
大祐「どうやっ……あ、黄色……」
(SE)由里、アクセル踏み込む、ブオォォォオーン!
由里「こうするのよ!」
理恵「2、1……」
(SE)教習車、カマクラ市役所前の交差点を四輪ドリフトしながら右折し、そのまま、まっしぐらに駅前のロータリーに入る。
キュキュキュキュキューブワオオオオーン!ブブゥゥゥゥ!
四輪ドリフトしながら交差点を抜ける際の大祐と理恵のリアクション、
大祐「ノオオオオ!(声が振動で思いっきり震えてる)」
理恵「キャーッドリフト最高ーーーー!(声震えてる)」
(SE)ブゥゥゥゥ、キッキーッ。
由里「はい!到着。間に合ったでしょ?」
大祐「(独白)だんだんこの状況に慣れはじめた自分が怖い……」
理恵「8時30分10秒。余裕だよー。ありがと由里!相変わらずいい腕だね。それじゃ!」
(SE)ガチャ、バム!理恵、車から降りる。そして改札に向かって走り出す。
タッタッタッタッタ……ッタ。足が止まる。理恵振り返る。
理恵「(少し遠くから)……あ、皆本くーん!助かったよ!今度お礼するからねっ!」
大祐「……いいですよーお礼なんて」
NA(皆本大祐)
(気持ちを込めて)梶原さんって本当にかわいいなー。って、見とれてる場合じゃないんでした。
でも、おかげで西口に寄り道することになったから、タイムトライアルは次の機会になったんだけど、
ぼくの行く手には、もっと大きな試練が待ち受けていたのだった。
由里「(不意に)あ、そうだ!」
大祐「な、なんですか」
由里「いいこと思いついちゃった!」
大祐「(独白)えーと……。怖いから聞くのよそう……」
由里「ね、皆本くん!市役所前の交差点にもどって右折して!そうするとすぐに左に入れる道があるの。
そこを曲がって少し走ると佐助トンネルがあるからそれをくぐって、つきあたりを右折して……」
大祐「どこ行くんですか?」
(SE)エンジンの音。ブゥゥゥゥゥ。
由里「着いてのお楽しみ♪」
NA(皆本大祐)
ぼくは由里さんの言うがままに、カマクラの狭い路地をなんとか走り抜けて、目的地に近づいていくのだった。
これが教習になってるかどうかは別として、知らない間に車を運転する感覚は身についてきたように思うのは
気のせいだろうか?
(SE)ブゥゥゥゥゥゥ。
由里「このまままっすぐね♪」
大祐「あ、なんか観光客がけっこういますねー」
由里「そう、この先に『銭洗い弁天』があるからね」
大祐「あ、それ聞いたことあります。またお参りですか?」
由里「違うよ。そこに手ごろな坂道があるの♪」
大祐「……坂道?」
NA(皆本大祐)(SE)ミンミンゼミ。
たしかに、ぼくたちの目の前には、うっそうと茂る木立の中をかなり急な坂道が小高い山の上のほうまで続いていた。
ぼくは、『銭洗い弁天』の入り口を左に見つつ、車をゆっくりと坂の中腹まで進めた。
大祐「すごい坂……」
由里「はい、ストップ!」
(SE)キッキー!、ガックン!
大祐「あのー。ブレーキ踏むとき、そう言ってくれません?由里さんが車止めるたびにエンストしてるんですけど……」
由里「ごめんねー。今度踏む前に注意する……。それより、さっそく坂道発進の練習よ!」
大祐「坂道発進?」
由里「そ!」
大祐「あの、それってパート9ですけど」
由里「パートいくつだっていーの!」
大祐「こんな観光名所でやるんですか?」
由里「そよ。そこに坂があるかぎり、人は坂道発進をするの!」
大祐「……なんですかそれ?」
由里「人生もカマクラも山あり谷あり。だから坂道に存在の必然性があるんだよ」
大祐「(独白)もしかして坂道フェチ?あー遠い目になってるし。これいじょう話題ふるのよそう。(独白終わり)
……えーっと。手順、教えていただけません?」
由里「坂道発進のポイントは、二つのブレーキを使い分けることね!」
大祐「二つのブレーキ?」
(SE)エンジンスタートの音。プシュシュシュン!
由里「そ!ヒントはそれだけ!あとは自分でよーく考えて!1メートル以上逆行したら、
検定では不合格になるからね」
大祐「二つのブレーキ……。ひとつは、もちろん運転席のブレーキですよね」
由里「ほら!下がってるよ……」
大祐「わわわ、や、やば。(SE)[ブレーキの音]キッ。
……もうひとつ……もうひとつのブレーキ!ど、どれだっけ」
由里「……フットブレーキ踏んだままじゃ、いつまでたってもアクセル踏めないな!」
大祐「ど、どこだー?……あ、あったー!」
由里「ちょ、ちょっと、どこに足入れてるの!」
大祐「……もうひとつのブレーキって、教官のじゃ……」
由里「助手席にブレーキついてる?フツー?皆本くん、わざとやったなー。あ!」
大祐「え?」
由里「……わたしに触ろうとしたでしょ?」
NA(皆本大祐)
信じてもらえないかもしれないが、ぼくは無実なのだ。これはどんな神さまに誓ったっていい。
でも、不思議なことに由里さんは、それ以上この件に触れようとはしなかった。
ぼくは、何度となく坂道発進の練習を行い、ようやく要領をつかむことができた。
もうひとつのブレーキとは、もちろんハンドブレーキのことである。
帰り道に、由里さんは、くずきりを食べたいと言い出した。
(SE)ミンミンゼミ。小川のせせらぎ。(この路地に沿って小さな水路があるのです)
由里「ね!おいしいんだよ、みのわのくずきり!食べようよ!」
大祐「ぼくは甘いものはあまり……」
由里「さっぱりしてておいしいからさ!ね!眠気も吹っ飛ぶからさ!」
大祐「でも、教習の時間ほとんど残ってないですよ……」
由里「(落ち着いて)いいんだよ。時間なんか気にしなくたって……」
NA(皆本大祐)
由里さんがおいしそうにくずきりを食べているところを見ていたら、
なんだかすべてが由里さんの言う『細かいこと』に思えてきた。
ぼくはすっかり彼女のペースに巻き込まれているのかもしれない。
けど……それでもかまわないと思えてきた。
(エンディングBGM)
NA(皆本大祐)
そして……。
(SE)……RRR。RRRRR。RRRRR。携帯電話のコール音FI、さきほどからずっと鳴り続けている。
ピッ。大祐出る。
皆本大祐「(めちゃめちゃ眠い)ふ、ふゎーい。もひもひ?」
北条由里「(電話の声)わたし、由里だよ」
大祐「(口がまわってない)……え?ゆ、由里ひゃん?また早朝きょうひゅーでふか?
今、何時でふかー?……ゲ、5時。(SE)ベッドに倒れこむ。バフッ。おやふみなふぁーい」
由里「(電話の声)ね、こんどカマクラデートしない?」
(SE)電話切れる。ピッ。
少し間
(SE)……RRR。RRRRR。RRRRR。ピッ。
大祐「(電話の声)ゆ、由里さん……今、なんて?」
(第3話終わり)
【カマクラカルトクイズ3】
梶原理恵「さーて、いつものようにカマクラカルトクイズ!ドンドンパフパフー!
銭洗い弁天の坂上、扇ガ谷(おうぎがやつ)と梶原を結ぶ、現在でも通れる、とっっても険しい坂道をなんて言う?」
北条由里「カマクラ市民なら常識だね。化粧坂(けわいざか)だよ」
朝比奈響子「北鎌倉からまっすぐ登る坂ね。それは亀ケ谷坂(かめがやつざか)っていうのよ」
梶原理恵「建長寺まえから続く坂のことでしょ?だったら巨福呂坂(こぶくろざか)だよ」
音声ドラマとシナリオは演出の都合上、一部変更されている場合があります。
(C)2000-2001 (K)
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